• HOME
  • Photon JOURNAL
  • Vol.7 福田木工 ――曲線美演出の什器 日本の原風景から生まれた黄金比

連載

Vol.7 | 2026.10.01

福田木工 ――曲線美演出の什器 日本の原風景から生まれた黄金比

両足院の大書院に広がる12枚の写真。和紙に印刷した作品を支える木製の什器を担当したのが「福田木工」だ。畳を傷つけずに和紙を支える本来の用途に加え、自然の移ろいとともに写真が映える曲線美を演出。木工什器が決して主張することはない。だが、静かに、確かに、そこに存在し、羽生結弦さんの写真を引き立てていた。

金剛山地を背にする大阪府南河内郡。日本の原風景とも言える場所に、福田木工の工房がある。木工職人の福田浩之さんが一人、自らの技術と静かに向き合い、作品を生み出す場所だ。材木屋発祥の木工所で、住宅・店舗のリフォームや壁面造り付け家具の製作が本業。「材木屋がルーツなので、木の反りや収縮、加工後の経年変化を熟知していることが強みで、展示什器を作るときも、それを生かせるよう心掛けています」と話す。

木工什器×アート――議論を重ねてたどり着いた心地良さ

長い和紙を支える流麗な曲線にたどり着くまでには試行錯誤があった。什器は反物をかける木製の台・撞木(しゅもく)をイメージし、和紙の作品をかけることで羽生さんが氷上を軽やかに滑り、跳ぶイメージを想起させるコンセプトだった。当初は什器8台を横一列に並べる想定だった。セノグラファーの小西啓睦氏(miso)らと議論を重ねる中で、壁のようにならないよう、鑑賞に最適な高さと幅、レイアウトの間隔を現場で検証。壁のような圧迫感をなくし、庭の景色も楽しめる展示に仕立てた。

結果的に什器は6台に。写真展の仕上がりを見た福田さんは「空間に対する台数やバランス、高さもちょうど良かった。小西さんを中心に職人たちが集まって作ったから、イメージした通りで心地良くなりました。両足院の畳の真ん中に什器があり、羽生さんの写真が風で揺れていて、良いものができたと思いました」と振り返った。

和魂洋才――緻密さと大胆さ…海外体験で見えた可能性

そもそも、対極にあるはずの住宅家具とアートはどこで結びついたのだろうか。それが10年ほど前から小西氏らが参加している京都が舞台の国際的フェスティバル「KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭」だった。芸術作品を組み立てる構成要素として存在する展示什器を製作する楽しさを知った。家具や住宅リフォームのように、それ自体が用途を満たす主役とは異なり、作品を引き立て、空間と一体化させていく過程に可能性を感じた。

福田さんの言葉は熱を帯びる。「例えば住宅家具などの生活必需品は、長年の使用に耐えるために90~100%の剛性が必要ですが、アート作品はそれが60%になったり。さらに、線を細くできたり、支えているものを1本抜いたり、遊びができてくるんです」。遊び、余白の醍醐味が技術として先鋭化していったのが、「KYOTOGRAPHIE」として毎年参加しているフランスのアルル国際写真フェスティバルだった。数週間の時間をかけ、欧州の職人たちとアート作品の空間を演出する展示什器を製作。緻密に作り上げる日本人の技術の高さを自覚するとともに、あえて作りすぎない本能的な美しさにも感銘を受けた。「大雑把というんでしょうか。そういうモードの方が、ちょっと抜けた良いモノができる時もある。そういう発想が頭の中に入っていくので勉強になりますね」と笑う。

こだわりの工房には、スイスやドイツ、オーストリアといった海外製の機械も取り入れている。職人としての様々な経験が、福田さんの技術の出力を上げ続けている。「什器はアートの一部。自由にやってよくても、それが主役にならないように。どんな空間にしたくて、どう見せたいのか。アーティストやセノグラファーの意図を汲み取れたら良いのかなと感じています」。作品を引き立てる什器にまで、職人のこだわりが反映されていた。

Text 大和弘明
Photo 小海途良幹

福田木工
2016年創業の木工所。材木屋在籍中、独学で木工技術を習得。オーダー家具やリフォームなど設計から製作まで一人で手がけている。KYOTOGRAPHIE等でアート作品の展示什器製作にも携わる。

Behind The Scenes|小海途良幹 取材後記

福田さんの展示什器は、作品の骨格だと思う。

和紙に覆われてはいたが、作品の曲線美を作っていたのは和紙の下に存在していた什器だった。和紙が皮膚なら、什器は骨だろう。

しっかりとした骨格があったからこそ、畳の上で自立し、羽生さんがそこで舞っているように並べられた展示の狙いを体現出来た。

なんだかアスリートにも通ずるなと、福田さんの話を聞きながら思った。

木工職人の福田浩之さん(右)と