初夏の行楽シーズンに向け、旅先をどこにするか悩んでいる人も多いはず。今年は「和歌山百景から異世界ファンタジー」を体験してはどうだろうか。大阪・関西万博の「関西パビリオン」は9府県が出展しており、中でも「和歌山百景―霊性の大地―」をテーマにした和歌山ゾーンが出色。そして、泊まりは和歌山へ。フェリーで紀淡海峡に浮かぶ「友ケ島」に上陸すれば、そこはまさに異世界ファンタジー。同じ市内で城、神社、グルメ、温泉も楽しめる魅力的な場所だ。(倉地 城)
一度、自身の目で確かめるべき。大阪・関西万博を訪れて、そう思った。
東京駅から東海道新幹線で新大阪駅、そこから大阪メトロ御堂筋線、中央線を乗り継ぎ夢洲駅へ。入場口も、昼食会場もパビリオンも、事前予約していたから ほぼノーストレスで楽しめた。胸躍る、この初夏に行くべき場所だと感じた。
入場後は最初に昼食。サスティナブルフードコート「大阪のれんめぐり~食と祭EXPO~」をチョイスした。食い倒れの町「道頓堀」を中心に、大阪市内の飲食店が集結したフードコートでグルメが楽しめる。
事前予約席(550円)は水、菓子付き。多くの店の中から「大阪王将」の王将セット(ソフトドリンク付き、2400円)を注文し、餃子、炒飯、唐揚げを完食した。
その後は大屋根リングを散歩し、広大な敷地を視察。いよいよ目当ての関西パビリオンに入った。
関西広域連合として和歌山、兵庫など9府県が独自に展示。中でも和歌山ゾーンは紀州塗りが施された、高さ4㍍×8体の「トーテム」に映し出されるオーディオビジュアルで、風土が育んだ精神世界と実存世界の表情を百景として表現した。「高野口パイル」の生地が使われたソファー、紀州材のカウンターなど地元の素材、伝統の技術が使われている。
また、同パビリオン内で唯一、フードコンテンツを提供しており、食クリエーター・加藤峰子さんが地元老舗和菓子店等の職人、果物農家と考案した「Wakayamaの森と恵みのペアリングセット」が絶品だった。
「森を食す」をテーマに紀州桐箪笥の技術による器で提供。これまでは予約制で、連日約30食が完売続き。価格は6000円だが、京菓子司福田屋菓子店(新宮市)、うすかわ饅頭儀平(串本町)、郷土銘菓処ふく田(御坊市)、角濱ごま豆腐総本舗(高野町)、四季の味ちひろ(和歌山市)とコラボした和菓子など6種の味は「値段以上」だ。観音山フルーツパーラー(紀の川市)のドリンクとともに楽しめる。
パビリオンは従来通り予約制だが、うれしいことに「Wakayamaの森と恵みのペアリングセット」は6月17日からカウンターで当日オーダーが可能になり、味わうチャンスが広がる。提供は午後12時半~8時。
その後もトルクメニスタンのパビリオンなどを予約なしで見学した。会場を後にし、夢洲から難波、南海特急サザンで和歌山市へ。こちらもアクセス楽々、あっという間に到着した。
夕食は、和歌山市駅近くの居酒屋「くろしお」へ。新鮮な魚を中心に、地元の料理を堪能した。
万博で「和歌山ゾーン」の魅力を体感してから一夜明け、興奮は冷めない。
実際に和歌山市内の観光をしてみたくなり、南海和歌山市駅へ。港町・加太を代表する海の幸・タイがレールを泳ぐ南海電鉄加太さかな線観光列車「めでたいでんしゃ」の新車両「かなた」に乗車した。
窓に目、車体にうろこを描き、まるでレールの上をタイが泳いでいるよう。通勤、通学の乗客も多く、普通料金で運行。得する気分で終点・加太駅に到着した。
この駅を選んだ理由はズバリ、友ケ島の存在だ。紀淡海峡に浮かぶ瀬戸内海国立公園で、異世界ファンタジーの世界が楽しめると注目されている場所だ。
観光ガイドの〝紀州語り部〟こと松浦光次郎さんと合流。加太港から友ケ島汽船に乗り、霧の中で上陸した。
友ケ島とは4つの島(沖ノ島、地ノ島、虎島、神島)の総称で、19世紀の終わり頃に多くの兵士が駐屯する要塞として整備され、島内には現在も当時をしのばせるレンガ造りの砲台跡などが点在している。
遺構が島の自然に溶け込むようにたたずむ景色は、スタジオジブリの映画「天空の城ラピュタ」の世界のよう。松浦さんの説明にも力が入る。戦後80年、今ではコスプレ写真を撮る来島者も多いという。
特に印象的な第3砲台跡は第二次世界大戦まで使用された。朝方の霧が晴れ、タカノス山展望台からの絶景は忘れ得ないものとなった。
異世界ファンタジーを堪能した後は、加太に戻り、休暇村紀州加太へ。ここで体感できる旬の恵みと美肌の湯は、散策後のリフレッシュにぴったり。紀淡海峡を望むレストランで特製の「鯛(タイ)ラーメン」に舌鼓。また、総支配人・義本英也氏入魂の「おむすび」も格別だ。通常はモーニングで提供しているが、種類豊富なその味は絶品だった。昼食後は、加太淡嶋温泉特有のぬめりのある「美肌の湯」で汗を流してホッコリした。
続いて、毎年3月3日にひな流しの神事が行われる「淡嶋神社」へ。拝殿のひな人形は圧巻で、神秘的な雰囲気に包まれた。
最後は紀州徳川家の居城・和歌山城へ。市の中心にある虎伏山の頂上にそびえ、白亜の三層からなる天守閣が際立つ。
姫路城、松山城と並ぶ日本三大連立式天守のひとつ。豊臣、浅野、徳川と城主が変わるごとに異なる石垣が積まれ、その石垣に施された刻印は必見だろう。
文字通り、見どころ盛りだくさん。万博も、和歌山市も一度に回るには時間が足りない。
もう一度来よう――。瞬時に再訪を決めた初夏の旅となった。
■和歌山県公式観光サイト:聖地リゾート和歌山